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プライバシー尊重と個人情報保護

はじめに

 2005年4月に個人情報保護法が全面施行され、病院でも改めてプライバシー尊重と個人情報保護が問い直されています。この法律は新しいプライバシーの考え方がもとになっているので、多少分かりにくい部分があるかも知れません。医療情報の電子化が進展し、診察所見や検査結果、診断、治療経過といった特にセンシティブな個人情報を含む病院の医療情報が今後どのように適切に取り扱われなければならないか、その考え方と取り組みはどのようになっているのでしょうか。

プライバシーの考え方の変遷

 もともとプライバシーの考え方は「そっと一人にしておかれる権利」として19世紀末から欧米で発達してきました。これなら現在のわたくしたちにも馴染み深いものですが、日本に導入されたのはそれほど古くなく1960年代前半のこととされています。プライバシーの先進国アメリカでは、1974年には連邦プライバシー法でプライバシーの考え方をさらに発展させて「個人情報の自己コントロール権」と規定しています。簡単にいえば他人が持っている自分の個人情報に対してアクセスを保障し自分がコントロールできるという考え方です。この背景にはコンピュータ・データベースが普及し、一瞬にして多人数のプライバシーが侵害される危険が高まったという事情がありました。

 各国が個人情報の自己コントロール権に基づく個人情報保護法制を整備し始めると、また新たな問題が出てきました。それは国毎に個人情報の自己コントロール権の基準が異なり、国際間の情報のやり取りまで困難になりかねないということです。そこでOECD(経済開発協力機構)では1980年にOECD8原則を制定し、加盟各国に法制の標準化を促しました。現在でも「個人情報の自己コントロール権」の基準となる考え方で、わが国の個人情報保護法も基本的にこれを土台にしています。

OECD8原則(厚生労働省ホームページより)

1.目的明確化の原則
 収集目的を明確にし、データ利用は収集目的に合致するべき。

2.利用制限の原則
 データ主体の同意がある場合、法律の規定による場合以外は目的以外に利用使用してはならない。

3.収集制限の原則
 適法・公正な手段により、かつ情報主体に通知又は同意を得て収集されるべき。

4.データ内容の原則
 利用目的に沿ったもので、かつ、正確、完全、最新であるべき。

5.安全保護の原則
 合理的安全保護措置により、紛失・破壊・使用・修正・開示等から保護するべき。

6.公開の原則
 データ収集の実施方針等を公開し、データの存在、利用目的、管理者等を明示するべき。

7.個人参加の原則
 自己に関するデータの所在及び内容を確認させ、又は意義申立を保証するべき。

8.責任の原則
 管理者は諸原則実施の責任を有する。

 実はわが国でもこの考え方が1999年にプライバシーマーク制度に取り入れられ、一部に普及していたのですが、一般に知られるようになったのは個人情報保護法の全面施行(2005年4月)以後のことといえそうです。

プライバシー尊重にもとづく個人情報保護の病院での取り組み

 従来病院でのプライバシー尊重は医療のさまざまな場面で基本となり憲法第13条でも謳われている「個人の尊重」に連なる取り組みとして、個人情報保護は医療者の「守秘義務」として取り扱われてきました。これらに係わる法律・規範は末尾にまとめておきました。

 しかし冒頭でも述べた医療情報の電子化の進展や個人の権利意識の向上にともなう医療現場の環境変化に対応するため、従来からの法律や規範だけでは不十分で、病院の利用者と医療の提供者との間に、適切な合意形成を図るためのマネジメントシステムが必要になりました。その取り組みの1つがこの「みんなの医療ガイド」でも取り上げられている日本医療機能評価機構の病院評価の仕組みで、プライバシー尊重にもとづく評価項目が多く取り入れられています。そしてもう1つがここで紹介したOECD8原則(個人情報保護法)に則った対策といえるでしょう。
 OECD8原則に則った病院の取り組みは全日本病院協会のこのホームページのトップページにある「個人情報保護法施行に伴う医療機関における準備事項等に関する資料提供について」で詳しく紹介されていますので参考にしてください。

資料

法律:

憲法13条 「個人の尊重と公共の福祉」
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

刑法35条 「正当行為」
 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

同37条 「緊急避難」
 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

同134条 「秘密漏示」
 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産婦、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
2 宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも、前項と同様とする。
(参考:上記条文に対する条文)

刑法135条 「親告罪」
 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

労働安全衛生法104条 「健康診断に関する秘密の保持」
 第65条の2第1項及び第66条第1項から第4項までに規定する健康診断の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の心身の欠陥その他の秘密を漏らしてはならない。

じん肺法35条の3 「じん肺健康診断に関する秘密の保持」
 第7条から第9条の2まで及び第16条第1項のじん肺健康診断の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の心身の欠陥その他の秘密を漏らしてはならない。

医療法1条の4 「医師等の責務」
 医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手は、第1条の2に規定する理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない。
2  医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。
3  医療提供施設において診療に従事する医師及び歯料医師は、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連係に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介し、その診療に必要な限度において医療を受ける者の診療又は調剤に関する情報を他の医療提供施設において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯科医師又は薬剤師に提供し、及びその他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
4  医療提供施設の開設者及び管理者は、医療技術の普及及び医療の効率的な提供に資するため、当該医療提供施設の建物又は設備を、当該医療提供施設に勤務しない医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手の診療、研究又は研修のために利用させるよう配慮しなければならない。

医療法72条 「秘密漏泄」
 第5条第2項若しくは第25条第2項若しくは第4項の規定による診療録若しくは助産録の提出又は同条第1項若しくは第3項の規定による診療録若しくは助産録の検査に関する事務に従事した公務員又は公務員であつた者が、その職務の執行に関して知り得た医師、歯科医師若しくは助産婦の業務上の秘密又は個人の秘密を正当な理由がなく漏らしたときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2  職務上前項の秘密を知り得た他の公務員又は公務員であつた者が、正当な理由がなくその秘密を漏らしたときも、同項と同様とする。

保健師助産師看護師法42条の2 「守秘義務」
 保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。保健師、看護師又は准看護師でなくなつた後においても、同様とする。
診療放射線技師法29条 「秘密を守る義務」
診療放射線技師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。診療放射線技師でなくなった後においても、同様とする。

臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律19条 「秘密を守る義務」
 臨床検査技師又は衛生検査技師は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。臨床検査技師又は衛生検査技師でなくなつた後においても、同様とする。

理学療法士及び作業療法士法16条 「秘密を守る義務」
 理学療法士又は作業療法士は、正当な理由がある場合を除き、その業務上知り得た人の秘密を他に漏らしてはならない。理学療法士又は作業療法士でなくなつた後においても、同様とする。

規範:

「世界人権宣言」(1948.12.10 第3回国連総会採択)
第12条
 何人も自己の私事、家族、家庭もしくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。


「ヒポクラテスの誓い」
 いかなる患家を訪れるときも、それはただ病者を利益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。女と男、自由人と奴隷の違いを考慮しない。医に関すると否とに関わらず、他人の生活についての秘密を守る。


「医師の倫理」(昭和26年 日本医師会)
第1章 第3節 疾病に関する秘密義務を守ること。


患者の権利と責任「勤務医マニュアル」(1983年 日本病院協会)
4-4 患者の受療に対する倫理的権利として次の各項がある(カッコ内は生命倫理の原理を示す)。

医療上最適のケアを受ける権利(恩恵授受の原理)

適切な治療を受ける権利(公正の原理)

人格を尊重される権利(人権尊重の原理)

個人情報を保障される権利(守秘義務の原理)

医療上の情報、説明を受ける権利(真実告知の原理)

医療行為(法による許可範囲外)を拒否する権利(自己決定の原理)

関係法規と病院の諸規則などを知る権利

 このうち真実の告知については、例えば、がんであることを知らせる雰囲気を看護チームが中心となって醸成し、患者が安心立命の境地に入るようにしてから、主治医から説明を受けるようにする方法もある。


「症例報告における患者情報保護に関する指針」(2001年 日本病理学会)
 患者の個人情報(プライバシー)の保護は、医療者に課せられた義務である。当然ながら症例報告に際しては、個人の特定ができないようにする配慮が必要である。症例報告の医学・医療の進歩・発展における重要性に鑑み、社団法人日本病理学会はここに、症例報告における個人情報の記述に関する指針を公表する。
 以下の各項目に記述された事項は、疾病の提示・理解に必要不可欠である場合を除いて、可能な限り遵守されるべきである。

1.

患者の氏名、イニシャル、雅号は記述しない。

2.

患者の人種、国籍、出身地、現住所、職業歴、既往歴、家族歴、宗教歴、生活習慣・嗜好は、報告対象疾患との関連性が薄い場合は記述しない。

3.

日付は、記述せず、第一病日、3年後、10日前といった記述法とする。

4.

診療料名は省略するか、おおまかな記述法とする(たとえば、第一内科の代わりに内科)。

5.

既に診断・治療を受けている場合、他除名やその所在地は記述しない。

6.

顔面写真を提示する際には目を隠す。眼疾患の場合は、眼球部のみの拡大写真とする。

7.

症例を特定できる生検、剖検、画像情報の中に含まれる番号などは削除する。


「患者の権利に関するリスボン宣言」(1981年9月/10月、ポルトガル、リスボンにおける第34回世界医師会総会で採択)


7.情報を得る権利

a.

患者は、いかなる医療上の記録であろうと、そこに記載されている自己の情報を受ける権利を有し、また症状についての医学的事実を含む健康状態に関して十分な説明を受ける権利を有する。しかしながら、患者の記録に含まれる第三者についての機密情報は、その者の同意なくしては患者に与えてはならない。

b.

例外的に、その情報が患者自身の生命あるいは健康に著しい危険をもたらす恐れがあると信ずるべき十分な理由がある場合は、情報は患者に対し与えなくともよい。

c.

情報は、その患者をとりまく文化に適した方法で、かつ患者が理解できる方法で与えられなければならない。

d.

患者は、他人の生命の保護に必要とされない限り、その明確な要求に基づき情報を知らされない権利を有する。

e.

患者は、必要があれば自分に代わって情報を受ける人を選択する権利を有する。


8.機密保持を得る権利

a.

患者の健康状態、症状、診断、予後および治療について身元を確認し得るあらゆる情報、ならびにその他個人のすべての情報は、患者の死後も機密は守られなければならない。ただし、患者の子孫には、自らの健康上のリスクに関わる情報を得る権利もあり得る。

b.

機密情報は、患者が明確な同意を与えるか、あるいは法律に明確に規定されている場合に限り開示されることができる。情報は、患者が明らかに同意を与えていない場合は、厳密に「知る必要性 need to know」 に基づいてのみ、他のヘルスケア提供者に開示することができる。

c.

身元を確認し得るあらゆる患者のデータは保護されねばならない。データの保護のために、その保管形態は適切になされなければならない。身元を確認し得るデータが導き出せるようなその人の人体を形成する物質も同様に保護されねばならない。


「ヘルシンキ宣言」(1964年6月、フィンランド、ヘルシンキの第18回世界医師会総会で採択)
ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則


B.すべての医学研究のための基本原則
10.被験者の生命、健康、プライバシー及び尊厳を守ることは、医学研究に携わる医師の責務である。


(以上)


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